~ハナビラタケ編~

異常気象で各地に豪雨被害が続出している被災地にお見舞い申し上げます。

さて、今宵はいつもの暖簾(のれん)をためらいながらくぐると今日は仲間達がいない。奥からはいつもの甲高い女将の声で「きのこ先生いらっしゃ~い!」と出迎えてくれた。

「まずはビール」と飲み始める。静かに飲んでいると「今夜はお酒が進まないわね」と言われてしまう。それでも量が進んでくると、さすがに気分も良くなり語りたくなる。

今宵は、夏の高山に生えるきのこ「ハナビラタケ」について語ろう。

 このきのこは、昔から木こりが山奥で採って炭火で焼いて食べていたと言われている。また、カリフラワーに似ていることから、外国では「カリフラワーマッシュルーム」と呼ばれている。中々見つけることが出来ず「稀(まれ)なきのこ」である。近所の道端に生えるようなきのこではないが15年程前に人工栽培されるようになった。

 

 小生初めてハナビラタケを目にしたのは、群馬県草津のカラマツ林沿いの道路脇である。雑草に混じって草刈り機で刈られ、無残にしおれたハナビラタケである。すぐ近くのカラマツ林を探索したものの、見つけることが出来なかった。

 翌年、年老いた母をはじめ親類の老人を連れて蓼科高原に旅行した時のことである。

クマザサの生い茂る小道を散策しながら、母達に「ハナビラタケ」というきのこはこんなクマザサの中に生えるよと、指さしたその先に偶然発見!シラビソ(モミの仲間の常緑針葉樹)の根元付近にこんもりしたハナビラタケの株が散在しているではないか。

 この時のきのこ狂にとっては、草津で見た道路沿いのハナビラタケの無残な姿が焼き付いていたので、天にも昇る気分であった!この発見は少なくとも、きのこ目による学習の成果と秘かに自認している。

小型バケツ一杯の収穫があり、ホテルに戻って自慢話に花を咲かせた。傷みの少ない一部のきのこを種菌用として宅配便に託した。

 

 以来、蓼科高原に出かけた時は、クマザサの小道を掻き分け、きのこ目を凝らしてハナビラタケを楽しんでいる。不意に酔いが回ってきたようだ。飲み仲間も少なく一人盃を重ねながら今宵はこれにて。

高原での思い出にふけり、気分良く店を後にする。     (徹)